「海事セキュリティセミナー」の開催報告
平成18年9月21日(木)14:00~17:00に日本財団2階大会議室にて、「海事セキュリティセミナー」を開催いたしました。 |
船技協(津田理事長の挨拶)
本講演会は、本会 津田理事長の挨拶に始まり、織田陽一氏から「海事分野におけるセキュリティに関する動向」について、太田進氏から「ISOにおけるセキュリティ規格(ISO 28000シリーズ)の現状」について、続いて、渡邉豊氏から「海事分野におけるセキュリティの課題」について、それぞれご講演いただきました。
織田陽一氏の講演太田進氏の講演
渡邉豊氏の講演セミナー受講者
各講演ともに、極めて関心の高いテーマであり、当日は、110名という多数の方々にご来聴頂くことができました。
セミナー開催にあたり、多大なご支援・ご協力を頂きました日本財団をはじめとする関係団体、ご講演者及びご来聴いただいた皆様に改めて厚く御礼申し上げます。
1.議事次第
a)開 会
b)開会あいさつ (船技協/津田理事長)
c)海事分野におけるセキュリティに関する動向について
(織田 陽一 氏 : 国土交通省 海事局 総務課 海事保安・事故保障対策室 専門官)
d)ISOにおけるセキュリティ規格(ISO 28000シリーズ)の現状について
(太田 進 氏 : 独立行政法人海上技術安全研究所 運航システム部門 上席研究員)
e)海事分野におけるセキュリティの課題について
(渡邉 豊 氏 : 東京海洋大学 教授)
f)閉 会
2.講演要旨
2.1「海事分野におけるセキュリティに関する動向について」【織田 陽一 氏】
- 2006年1月11~13日に開催された国際交通セキュリティ大臣会合の概要の紹介。同会合の結果として採択された「海事セキュリティに関する大臣声明の骨子」の紹介。
- 国際サプライチェーンにおけるコンテナの海上輸送のセキュリティの強化
- 改正SOLAS条約及びISPSコードが適用されない船舶のセキュリティの強化
- マラッカ・シンガポール海峡におけるセキュリティの強化
- 改正SOLAS条約及びISPSコードの確実な実施のための港湾セキュリティ対策及びポートステートコントロールに於ける国際協力の推進
- 2006年7月3日~7日に開催されたIMO(国際海事機関)簡易化委員会での海上セキュリティに関する議題への対応の概要説明。
- 2006年7月5日の北朝鮮によるミサイル発射実験に関して政府の対応の概要説明。
2.2「ISOにおけるセキュリティ規格(ISO28000シリーズ)の現状について」【太田 進 氏】
- ISO(国際標準化機関)/IEC(国際電気標準会議)の紹介: 設立、目的、制定規格数など。船舶関係国際規格は主として、ISO/TC 8(船舶及び海洋技術専門委員会)、TC 188(スモールクラフト専門委員会)の委員会で審議されており、国内窓口は船技協。 WTO/TBT協定(国際規格がある場合、原則としてこれと異なる国内規格[日本ではJIS]を作成しないこと)の発効により、欧米諸国は国際規格を戦略的に活用。 船舶分野では特にIMO(国際海事機関)とISO/IECとの協調体制が構築されており、ISO/IEC規格の重要性が増大している。
- 海事セキュリティ(ISO 28000シリーズ)はWCO(世界税関機構)や米国を中心とした各種セキュリティーイニシアチブと密接に関連するため、重要。
- IMOではISPS Codeがあるが、SOLAS条約適用対象船舶が対象であり、適用対象外の船舶、港湾施設等にも適用を広げるため(ISPS Codeの補完のため)、米国を中心に港湾の保安規格(ISO/PAS 20858)を策定。
- 米国のC-TPAT、WCOのAEO基準(認定事業者基準)等の相互承認を進めるに当たり、ISO/PAS 28001(サプライチェーンの保安のための実務-評価と計画)への期待は大きい。
- C-TPAT、AEO基準共に認証取得者に対して、通関上のメリットを付与することになっているが、現状では認証を取得していなくても通関が遅れるなどの障害は生じていない。
- ISO 28000シリーズ(ISO 28000、28001、28003及び28004)は、ISO/TC 8 議長(米国)の強いリーダシップのもと迅速な作成のため集中的に審議が行なわれ、ISO 28003を除きPAS(公開仕様書)として発行されており、ISO 28003も近日発行予定。 今後、正式なISO規格として制定させるための作業を進め、2007年頃にはすべての規格が正式なISO規格として発行される予定。
- ISOに於けるセキュリティ関連規格の紹介 (ISO 22000:2005[食品安全マネジメントシステム-フードチェーンの組織に対する要求事項]、ISO/IEC 27001:2005[情報技術-セキュリティ技術-情報セキュリティマネジメントシステム-要求事項]、ISO/PAS 17712:2006[貨物コンテナ-メカニカルシール]など)
2.3「海事分野におけるセキュリティの課題について」【渡邉 豊 氏】
- 2001年9月11日の米国テロがすべての始まりではなく、1980年代から米国政府はコンテナインスペクションを実施している。 米国政府は物流セキュリティに対するコンプライアンスを率先して実施。しかし、コンテナ内部の貨物全数検査は不可能。 そこでISO 20858(港湾と船舶の施設)、ISO 28000(トップマネジメント)、ISO 28001(物流現業)が提案・作成された。
- この潮流に対して日本は産官学で対応し、代表者を国際会議へ送致している。
- 国際間サプライチェーン物流におけるISO 28000シリーズが活用された場合、輸出入側共に荷主、陸上輸送業者がISO 28000シリーズ認証を取得し、港湾がISO 20858認証取得しているならば、セキュリティに関する海運業界の負担は殆ど発生しない。 しかし、ISO 28000シリーズ認証を未取得で、セキュリティレベルに懸念がある地域の荷主・港湾を利用する場合、陸上輸送を含むサプライチェーン全体のセキュリティレベル確保が海運に求められることが想定され、費用負担も大きくなる恐れがある。
- また、安価な中継港を利用することにより、Free Trade Zoneを媒介として、ISO認証に基づくセキュリティレベルが維持された製品(コンテナ)と非承認の製品(コンテナ)とが混在し、セキュリティレベル維持が難しくなる可能性がある。
- 今後の港湾利用に当たっては、各港のセキュリティレベルに配慮することが必要となってくる。
- ISO 28000シリーズの今後の普及については、現段階では予測し難いが、スターバックスが率先して取得に乗り出している状況なども鑑み、自社の国際競争力強化の視点から判断すべきである。 ドバイ港がISO/PAS 28000:2005(サプライチェーンのためのセキュリティマネジメントシステムの仕様書)のcertification(Lloyds Register Quality Assurance(LRQA)から)を世界で初めて取得した。
3.海事セキュリティーセミナーにご参加いただいた方々からのご意見
セミナー当日にご参加いただいた方々から戴いたアンケートの結果は以下のとおりです。
ご意見は、当協会に取って大変有益なものであり、今後の調査研究に反映させていきたいと考えております。ご協力ありがとうございました。
また、今後とも機会を設け、セミナー、報告会、ワークショップ等としてご報告していく事としておりますので、何とぞご聴講いただきご意見戴けますよう、宜しくお願い申し上げます。
3.1 参加者数(業種別人数及び合計)
① 海運・船舶管理会社(主として外航関係)/23名
② 海運・船舶管理会社(主として内航関係)/13名
③ 造船会社/7名
④ 舶用機器製造者/5名
⑤ 商社/2名
⑥ 研究機関・会社/7名
⑦ マスコミ/2名
⑧ 社団・財団法人/24名
⑨ 官公庁/14名
⑩ その他/13名
合計/110名
3.2 参加者のご意見
海事セキュリティセミナーアンケート結果(アンケート提出者数: 42名)
Q1 セキュリティセミナーについてのご意見、ご感想をお聞かせ下さい。
- 非常に興味深かった
- 略語が多いので略語集等、注釈が欲しい
- 内容が難しく質問出来るレベルに自分がなかった
- 参考になった。今後の動向が示されているように感じた
- 非常に役立ち、勉強になった
- セキュリティに関する第三者認証の難しさ(つまり、第三者機関にセキュリティに関する情報を開示しなければならないこと自体、セキュリティとして問題があるということ)を感じた
- 非常に難しい話で、残念ながら判りにくかった
- 各人がよく勉強されていて、また各人の意見もたいへんおもしろかった
- ISO 28000シリーズの講演内容についてもう少し時間を割いて欲しかった。他の講演についてはやや情報的であった
- 非常に参考になった。もう少しじっくりと聞く時間があればと思った
- セキュリティについての問題と概略が大まかに理解できたと思う
- 今回のセミナーに参加して、セキュリティに対する考えを変えなければならないと思った
- 配付資料がわかり易く、役に立った
- ISPS codeに関する事項は解りにくい面が多いが、概容を理解するには良い内容だった
- ISO 28000シリーズの重要性等が認識出来た
- ISOの動きが良くわかった
- 非常に分かり易く、論理が明快だった
- 勉強不足で解りづらい面もあったが、様々興味深い話で大変参考になった
- もっと詳しく具体的な話が聞きたかった
- 時間が短かった
- 講師のプレゼン能力が高かった
Q2 今後のIMO(ISPS code等)/ISO(ISO28000シリーズ規格等)に於ける海事セキュリティ動向へのご意見、ご要望、ご提案をお聞かせ下さい。
- 大変勉強になった
- 人的資源がなかなか割けない当社の場合、日本船主協会等でWGを作った上で対応して貰わないとかなり厳しい
- 具体的に、今後何を実施しなくてはならないか等、定期的なセミナーの実施を希望する
- リスクを採って先行するということは、競争に勝つためには必要だと思う
- LNG船のセキュリティについて、セミナーをやって欲しい
- 米国のセキュリティ対策の最新動向について知りたい
- コンテナ船がメインと考えられるが、いずれバルク船等全船種に対応されると思う
- ISO 28000シリーズの構成は良く理解できた
- これから勉強を始めるが、もう少し船会社として実施すべき事を具体的に説明して貰いたかった
- 定期航路では、ISO 28000シリーズが今後必要になると思うが、不定期航路は管理会社として何をすべきなのか・・・?
- メールニュース等を利用して、最新のTOPICSを紹介して貰いたい
- 米国だけでなく、北欧諸国の動向について紹介して欲しい
- あらゆる分野の意見を聞きたい
- 海事セキュリティ問題は、お金、手間ではなく大事である
- やはり海周りに全ての負担が来るのは避けたいと思う
- テーマの性格上やむをえないが、具体性がなく加えて邦文資料が少ない
- 引き続き、Hotな情報を提供して欲しい
- 通関のみならず、入管、警察、港等と結びついたセキュリティ上のシングルウィンドウ化は、日本では進まないのか?
- セキュリティ規制、保安計画の実施状況、成果や問題点の検証
Q3 今後、セミナー等の講演会で取り上げて欲しいテーマがあればお聞かせ下さい。
- ISO 28000及び28001の実践例
- ISPS及び強制法規とISO 28000シリーズの関わりについて
- セキュリティパスが具体的にどのように確保されているのかについて
- 船舶管理について
- 本船の修繕、管理について
- 新技術に関するセミナー
- セキュリティ関係のより実務面にフォーカスして
- 環境に関すること
- セキュリティの実務
- PSCの現状(第三国での検査)
- 中国国内の物流と同物流に関するセキュリティ
- 中国から出される虚偽深刻危険品に関すること(海上での事故多発のため)
- 電子シール、セキュリティシールについて船と陸上側のインタフェースについて
- セキュリティとRFID(Radio Frequency Identification:ICタグ等)について
- ISPS codeの改正とのつながり
- 米国等、海外での環境保護規制に関する最新情報
- メガポートイニシアティブについて
Q4 その他、本会に対するご意見、ご要望などあればお聞かせ下さい。
- ホームページ等で今まで実施した講演内容、簡単な解説を紹介して欲しい
- 今後もセミナーがあれば参加したいと思う
- 今後も継続して、このようなセミナーを企画、実施して欲しい
- セミナー数を増やして欲しい
- 「海事保安に係る基準に関する調査研究」についてタイムリーにHP等で公表して欲しい
- IMOにおいて討議内容等を適宜要約し、公表して欲しい
- 1セミナーをインターネット上で公開して欲しい
4.本講演会に関するお問い合わせ先
お問い合わせ先 : 一般財団法人日本船舶技術研究協会 基準・規格グループ
長谷川 幸生
TEL:03-3502-2130 FAX:03-3504-2350 e-mail:hasegawa@jstra.jp
※ 講演資料につきましては、本会会員用サイトに掲載しておりますのでご参照願います。